文月の本・壱
「雨ふりこぞう」



「雨ふりこぞう」 佐藤さとる全集7巻 もくじから:村上勉(画)


 「雨ふりこぞう」
 
佐藤さんの創作には、繰り返し登場するモチーフとも言える「小物」がいくつか存在する。「かたつむり」もそんな中の一つである。かたつむりと言えば、「豆つぶほどの小さな犬」で登場する、「マメイヌ捕獲用わな」が印象的で、佐藤ファンならば、まず頭に浮かぶだろう。そして、次に浮かぶのが、この「雨ふりこぞう」だと思う。

最初は鉛筆が転がったところから始まる。カズヤは、鉛筆を追いかけて、アリの行列を見つけ、その次に、不思議なカタツムリのカラを発見する。・・・

不思議な、カタツムリに入っていたのは、雨降り小僧だったという所から始まって、ちょっと不思議な物語が展開する。雨降り小僧は、不思議な余韻を残して、すっと消えていくのであるが、実に印象的な話である。たたいても割れないカラ。いきなり降り出す雨。そして、カラの中の不思議な世界。すぐそこにあるかのように展開するストーリーは、佐藤さんお得意のお話になっていく。

さて、小学校3年生になる上の娘が、小学校一年生の時、学校の図書館から初めて借りてきたのがこの「雨降り小僧」だった。佐藤さとるさんの本は、「まだまだ早い」と思って何も話していなかったのに、佐藤さんの本を選択して借りてきたのを見て、正直、うれしくて涙が出そうだった。いまだに村上さんは娘にとっては「コロボックル」の村上さんではなく「雨降り小僧」の村上さんなのである。

かく言う訳もあって、この話、私にとっては、一生忘れられない話になった。


佐藤さとる全集 7巻に収録。

今月の本にもどる