文月の本・弐
「ちゃいろの小びんちゃん」



「国土社:村上勉(画)


 のりちゃんが、学校からかえってきて、ふと二階から庭をみると、なにやらちいさなものが動いている。いそいで降りていくと、そこには、茶色のこびんが落ちていた。実は、その茶色いのこびんは、不思議なこびんだった…。
手慣れた感触で、するすると佐藤さとるワールドに連れて行ってもらえる、この話は最初は「鬼ヶ島通信:16号」に登場した。翌年の春、村上さんのすてきな挿し絵で化粧直しをして、国土社から出版された。


かれこれ、佐藤さとるさんの作品を、読み進んでいくと、佐藤さんのお話には「ちいさいもの」が、ちょくちょく登場することに気がつく。まあ、「コロボックル」はさておくとしても、「えんぴつ太郎」の3部作の主人公「えんぴつ太郎」や、前回ご紹介した、「タツオの島」の神さま、初期の短編の箱をたべる虫もその中にはいるだろうか?
また、ただ「ちいさいもの」が登場するだけではなく、その外見や状態も手抜きなく描写が続く。私を含めた読者は、「佐藤さとる」製虫眼鏡でもって、いろんなものをのぞくことになる。なんとまあ、いろいろなものを見せてくれるお方であろうか。


こびんちゃんが自分のなかから、なにかを取り出すところ:村上勉(画)


ちいさいこびんちゃんは、のりちゃんに、ちょっとした冒険をくれる。この話を読む読者も、のりちゃんとともに、その「ちょっとした」冒険を体験できる。
ちょっとした日常に、ちょっとした「不思議」な「空間」が登場し、静かに消えていく。佐藤さとるさんの術中にはまってしまう、そんな幸せな絵本である。
「ちゃいろの小びんちゃん」1990年11月 「鬼ヶ島通信:16号」に掲載。翌年春、国土社より発行

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