2002/12
「コロボックル物語」
とある所に依頼されて書いた文章です。
メモの代わりに掲載。
『 二十年近い前のことだから、もう昔といっていいかもしれない。ぼくはまだ小学校の三年生だった。−−−−』
冒頭このような出だしで始まる『だれも知らない小さな国』は、日本初の本格ファンタジー作品と 言ってもいいだろう。ハードカバー、全集、文庫をあわせて100万冊以上の出版実績を誇る 児童文学作品である。(たぶん・・・ね) 当初、家族だけに残すつもりだったという私家版と して誕生した薄い緑色のこの本は、講談社の編集者の目にとまって出版され、40年以上もの時を経ても、 多くの読者に愛されている。
主人公は、小学校三年生の時、ふとしたことから、崖と杉林とで囲まれた宝石のような場所である 「小山」と「三角形の平地」を見つけた。そこで彼は、一度だけ「小さな人」が子供の靴の中にいる ところを目撃する。彼にとって「小山」は文字通り聖域=「サンクチュアリ」となる。
そんな中、戦争の影がせまり、彼は小山を忘れていく。やがて影が去り明るい青空の下に立った時、 ふたたび彼は、昔出会った「小人」を探しはじめる。
何年かぶりに小山を訪れた彼の前に、ついに小人が姿を現す。彼は「せいたかさん」と呼ばれる ことになり、「小人=コロボックル」を守る「味方」に選ばれるのであった。やがて「せいたかさん」 は、もう一人の「味方」である「おチビ先生」とも巡り会い、知恵と勇気でコロボックルの「小山」の 危機を乗り越えるのである。
この物語に登場する「小人=コロボックル」は、決して魔法や特別の力を持ってはいない。 身長3センチあまり。多少人間よりも早口で、跳躍力や敏捷性に優れてはいるが、万能ではなく敵も多い。
その最たるものが人間である。
その人間を「味方」にするというストーリー設定の大胆さに驚くと同時に、 コロボックルがそこここを走り回るような感覚に襲われるほどのリアリティが魅力的である。生きて飛び回り、 悩み、恐れ、笑い、躍動するコロボックルは、それまでの妖精やお化けの扱いとは全く違う独立した キャラクターを持っている。
多くの読者がコロボックルの実在を願い、小山の在処を日本地図で探したとか、 自分の身の回りにコロボックルがいないか探したとかというエピソードも耳にすることが多い。可愛いだけ の妖精物語ではなく、現実世界に生きていくコロボックルたちの話だからこそ、この本は、最初の出版以来 40年以上の歳月を経ていながら、いまだに新鮮で、かつ多くの読者の支持を得ているのだ。
コロボックルにまつわる話は『だれも知らない小さな国』、『豆つぶほどの小さないぬ』 『星からおちた小さな人』『ふしぎな目をした男の子』『小さな国のつづきの話』という5冊の長編と、 『小さな人の昔の話』『コロボックル童話集』という2冊の短編集がある。
コロボックルたちが繰り広げるさまざまな物語。そこには、子供のころの身近にあった秘密の隠れ家の どきどき、わくわくする感覚、友達と夕暮れまで遊んだ開放された自由な感覚など、心の中にある凝縮さ れた想いや、人が心の中に持つ内宇宙とでも言う物を刺激するものがあふれている作品であるといえる。