2003/5
「ふしぎな目をした男の子」



「ふしぎな目をした男の子」
講談社:ファンタジー全集 表紙より
村上勉(画)


   コロボックル物語の「転」にあたるこの話には、それまでの3作でなじんだ「せいたかさん一家」は、ほとんど登場しない。小さな事件はあるが、大きな事件はない。とある少年と、二人のコロボックルのさりげないお話である。
 コロボックルの中でも「つむじまがり」で有名なウメノヒコ。だれもまともに呼ぶことはなく、「ツムジイ」と呼ぶ。このツムジイ、コロボックルが人間と「トモダチ」となることを許す「オキテ」ができたことに腹を立てて、なんと小山を飛び出してしまう。そして、コロボックルの動きに追いつくことができる「ふしぎな目」を持った少年に出会うことになる。
 「さりげないお話」と書いたが、内容は盛りだくさんである。コロボックルのおじいさんである「ツムジイ」とタケルの交流。ツムジイとコロボックルの子供であるツムちゃんの心温まる会話。脇を固める登場人物もよい。お兄さん役のヒロシや、コロボックルのツムちゃんのお父さんである大工のトギヤ、柿村鉄工所のおじいさんなどは捨てがたいいい味を出してくれている。今まで「せいたかさん」が中心だったコロボックルのお話が、「コロボックル自身」を中心に新たな場所で開いた花を見せてくれる。
 コロボックルたちは、この話の中でも「大きな人たち」が見逃しがちな様々なものをもう一度見せてくれる。本当に「大きな人」は忘れんぼなのだ。私にとってもこの話は、読むとなにか忘れたものを思い出せそうな、そんな感じを与えてくれる一冊となっている。

追伸:
鬼ヶ島通信の読者や、ここの常連さんにはご承知のことと思いますが、このお話は、作家の末吉暁子氏が、まだ編集者として講談社にいらしたときに、編集に携わった本とお聞きしています。鬼ヶ島通信のお手伝いを初めて以来、この本を読むたびに、世に出る本の後ろには黒子として立ち回っている編集者の方々がいらっしゃることを、末吉暁子氏のこととダブらせながら思い起こすことになりました。個人的には、そういう意味においても深い意味のある本になりました。

コロボックルのように影ながら働いてくださる編集者の方々に感謝をこめて・・・

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