2002/1・壱
「ロバの耳の王様後日物語」



「ロバの耳の王様後日物語」
佐藤さとる全集・12巻
村上勉(画)


 佐藤さとるさんの作品が始めて活字になったのが、「大男と小人」である。掲載されたのは「童話」という雑誌だった。当時、戦後まもないころで名前も、「佐藤さとる」ではなかった。その後、佐藤さんは「童話」に、数編の童話を投稿する。その中の一編が「ロバの耳の王様後日物語」である。「だれも知らない小さな国」をさかのぼること、10年以上前のことである。
 医者のタニイ博士と建築家のサットル氏は連れだって、芝居見物に出かける。題目は、「王様の耳はロバの耳」。「なかなかの好芝居だった」と、二人で感想を話しながら帰宅の途についた。その後、サットル氏はタニイ博士宛、「ロバの耳の王様」の後日談を手紙にして出す・・・
 分類すると「昔話の再話」という種類であろうか。この手の話、佐藤さんはお得意といえる。特に中国の、「聊斎志異」を元にした作品には佳作が多い。「机の上の仙人」とか、「竜宮のみずがめ」とかが代表例。その中でも、もっとも古い作品だろう。
 この「ロバの耳の王様後日物語」も、有名な神話を元にしたお話である。もとのお話のキーポイントをうまく逆手にとって、愉快な結末へと展開する所は、ストーリーテラーの面目躍如である。また、佐藤さんの名前をもじったと思われる「サットル氏」という名前も、ほほえましい。まだ若々しい文体が、感じられるのも「このころの作品ならでは」ともいえる。
 面白い展開もさることながら、本筋に入る前の、タニイ博士・サットル氏の「王様の耳はロバの耳」論は、中期以降の作品には滅多に出てこない、佐藤さんの考えを直接読みとることができる、貴重な一節・・・と言えるかもしれない。
 そんな事を思いながら読み直してみるのも、これまた一興と思う。
佐藤さとる全集12巻に収録

今月の本にもどる