皐月の本・弐:「グラムくん」
「グラムくん」

講談社文庫
「ぼくの机はぼくの国」収録
絵:村上 勉


「グラムくん」

〜五郎の野球帽には「g」というマークがつけてある。「G」というアルファベットの小文字である。もちろん、ゴロウの頭文字だ。〜
(「グラムくん」冒頭部分より引用)

佐藤氏の掌編のひとつ。ファンタジーではなく、冒頭の引用にあるように帽子のマークが「」になった顛末を、さらっと書いた短編である。読んだ事のある人でも、読んだ事があることさえ忘れそうなほど短いこの話、私にとってはみょうに気になる話である。
主人公は、「この文字を学校で習ってから妙に気になって」いろいろと想像を働かす。文字に対する新鮮な感動。そして発見。それが帽子にマークを取り付けることにつながっていく。

佐藤氏の話に出てくる主人公は「個」としての存在感が非常に強い。それは、「佐藤さとる」という作家の特徴の一つであることは、いままでの様々な方々が述べ連ねてきたことからも、言えることでもある。また、その主人公の回りの人たちも「個」を踏みにじることはあまりない。「個」は物語の中で見守られ成長する。この「グラムくん」も「先生の一言」によってさらなる自信を得ている。

まあ、なんだかんだと分析する以外でも、この話に引かれる理由は、五郎が「」マークを帽子に張り付ける際に、取った一連の行動なんかにあったりする。おかあさんにもらったベレー帽、そのベレー帽に対するちょっとしたおかあさんのコメント。手抜きのない佐藤流の描写にふっと引き込まれる部分である。

佐藤さとる全集(6)に収録。

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