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豆つぶほどの小さな犬



「豆つぶほどの小さな犬」旧版外箱(講談社):村上勉(画)


 「豆つぶほどの小さな犬」


「なんていったの。」
「シンブンシンブン。はなびらのシンブン」
・・・・・中略
「きみはいい子だ。りこうで、元気で、働きもので、おまけに魔女で詩人だ。だから大すきだ。

(佐藤さとる「豆つぶほどの小さな犬」より引用)
 最近は、猫も杓子も携帯電話を持っている。先日なんか、隣の三毛猫のタマが携帯電話のメールを見ていた・・・というと三流のファンタジーの話になってしまうが、その普及率たるや、すさまじい。小学生も、携帯電話を持っていてもおかしくない時代である。そんな中、人と人のおつきあいも変化している。

 まだまだ携帯電話普及前の頃、彼・彼女にドキドキしながら電話したことのない人は少ないと思う。電話番号をまず聞き、電話をする。誰が出てくるかわからない緊張。本人がでてきて欲しいと願いながら、呼び出し音を聞く。両親が出てきて”しどろもどろ”になって切ってしまう・・・。なんてこともあったでしょう。
 ところがいまじゃ、携帯の電話番号を聞き出せば、緊張感もなくつながり、お話もスムーズ。たぶん「告白」なんて、結果もすぐにでるのでしょう。そもそも恋愛ってどこがおいしいかっていうと、最初の最初、相手の気持ちを確かめる所までが一番おいしいのに。そんなに急がなくても・・・。(と思うのはオジサンの考え?)

 「豆つぶほどの小さな犬」のコロボックルの風の子とおチビとの出会いは、ゆっくりゆっくり進行していく。ほぼ一年間の物語の中で、二人の気持ちが語られる部分はすくない。そんな四季の移ろいの中でゆっくりと高まった風の子の気持ちは一気に思いもかけない形でおチビに向けられる。

「きみはいい子だ。りこうで、元気で、働きもので、おまけに魔女で詩人だ。だから大すきだ。

 携帯での会話とは、まったく正反対の場所にある風の子のかざらないストレートな言葉。あっけにとられるおチビの顔が目にうかぶ。「豆つぶほどの小さな犬」を支える、さわやかでゆっくりとした心の流れが、この言葉で一気に押し寄せる。決して派手ではない、でも、風の子らしい一言に乾杯である。

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