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「ヒノキノヒコのかくれ家」
「ヒノキノヒコのかくれ家」青い鳥文庫(講談社):村上勉(画)
「人生、出会いと別れである。」とは、よく言った物だ。使い古されてヨレヨレになっているが、物事の真相はさもありなん。人間の歴史が始まって以来、この時代に生まれ、この国に生き、その地に葬られるまで喜怒哀楽の時を過ごす。その時に生まれ出る確率の低さ、この場所にいることの奇跡的なことを考えると、これ以上ドラマチックな事はないかもしれない。
一世紀前までなら、自分の生まれた場所で結婚し、子供を育て、その地で一生を終えるのが普通だっただろう。75年前でもそうかもしれない。半世紀前あたりから、状況は変わりはじめ、日本国内はもとより、海外にまで生活の場は拡大していく。
いまや、インターネット時代で、「顔も見たことがない」相手と、知り合える。新たな扉が開かれて、新たな出会いが待っている。そこから来るのは、未知なる素晴らしい物か、新たなる恐怖か。
コロボックルにとって、「新たなオキテ」は、今のインターネットの何十倍もセンセーショナルだったに違いない。彼らの「ニンゲン」との出会いは、自分と仲間の運命をゆだねる物だから。その扉は重く、錆び付いてはいた上、向こう側にいる「ニンゲン」は得体のしれない「もの」の方が、多かったに違いない。
「だ、だって」コロボックルとの出会いという、うらやましい限りの出来事を、こうも鮮やかに描かれると、もう、笑って見ているしか無い。おまけに三国一の花嫁までもらえる(と、おもわせる)クラさん。「幸せもの!!」と、背中を「バン!!」と、景気良くタタイてやりたい気持ちがするのであった。
クラさんは赤くなって、やけにほうきをつかった。
「お、おれみたいなぼくねんじんのところへなんか、よめにきてくれる女の人はいませんよ。いまどきの女の子は、なにしろ、その、かっこいいのばっかりねらうでしょう。」
〜中略〜
その人は、ひゅうっとクラさんのかたにとびうつってきて、こんなことをささやいたのだ。
〜おばさんのいっているのは、自分のむすめのことだよ。おれはちゃんと知っているんだ。もらっちまえよ。クラさん!〜
(「ヒノキノヒコのかくれ家」青い鳥文庫より、抜粋)
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