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わんぱく天国



「わんぱく天国」(講談社):村上勉(画)


 「最近の子供たちは〜」という切り出し方で、時々現れてくる子供論。子供の環境は、年々歳々もまれにもまれて、変化のまっただ中にいる。今の子供たちを取り巻く環境は激変していることは確かな事だ。10年、いや5年前からも劇的変化を遂げている。5年前に自宅にインターネットを引いていた家庭の割合を考えていただければ明らかである。そのうち「小学生の時から、WEBサイトを立ち上げていました」という新入社員が入っているのも、時間の問題だろう。
 物に恵まれ、情報にあふれた今の日本では、真っ黒になって外で遊ぶ子供を見かけなくなって久しい。だいたい外で遊ぶことが出来る空き地が大都市をはじめ、中小都市ではない。そんな空き地で遊ぶことができるのはTVの中、カツオくんやのび太くんたちくらいなものだろう。だから、「わんぱく天国」の話などは夢のまた夢・・・になりつつあることも事実だ。
「カオルちゃん、いくぞ、いいか」
カオルは、にゃっとわらって、ちょっと右手をあげた。
「ようし、では、飛行用意!」
明の、大声がひびいた。
「いち、にい、さん!」
按針号はぐうっとすべりだし、がけの上から、予想よりもずっと力強く、空中におどりでた。

〜中略〜

ぼうぜんと、少年たちは、みごとな飛行をして消えていく按針号を見ていた。だれもなにもいわなかった。いわないだけでなく、からだも動かなかった。ロープをひいていた少年たちは、ロープをにぎって、ふりかえったしせいのまま、一郎は、がけっぷちでころがり、かたひざ立てて立ちあがりかけたしせいのまま、明のほうは、がけの上に仁王立ちになったまま、じっと動かなかった。

(わんぱく天国:講談社より引用)
 戦争の影を感じながらも、自然を友としてあそぶ子供たち。様々な遊びを通して生き生きとした姿を味合わせてくれるその様子は、まさに「わんぱく天国」。懸命に作り上げた飛行機が飛び立つ最後のシーンはこみ上げる物を押さえることが出来ない方もいるはずだ。
 若い命をそのままに、飛び回る子供たちがまさに「わんぱく天国」を作り上げる。このような子供たちを理想とする方もいらっしゃるだろう。今の子供たちにはないものを、彼らの中に見いだすことが出来るのは、当然といえば当然かもしれない。
 ただ、今の子供たちも、今を生きている。GBAを片手にポケモンを語る彼らにだって、飛んでいった飛行機を眺めていた子供たちと同じ物を持っている。それをのばすか、ころすか、それは親を含めた大人の責任であろう。
 昔を懐かしがっても、昔には戻らない。今の子供たちは、この情報社会の荒波をくぐって生きて行かねばならないのだ。彼らは彼らの時代の「わんぱく天国」を待っている。それもまた、確かな事だろう。 だからこそ、佐藤さとるさんの「わんぱく天国」を愛する子供たちが、かならず生まれてくるのも確かなことなのだ。
 「わんぱく天国」に流れるものはいつまでも語り継がれるに違いない。どんなに世の中が変わろうとも。

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