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ふしぎな目をした男の子



「ふしぎな目をした男の子」佐藤さとる全集・旧版外箱(講談社):村上勉(画)



「なあ、タケルちゃん、このガラスの中の水はね、ちゃんと生きているんだ。」
「水が生きているって、どういうことさ。」
タケルはめんくらってそういった。


 最近、暗いニュースが多い。不景気に追い打ちをかけているのか、不景気が追い打ちをかけているのかわからないが、「鶏と卵」のようなものである。ポンポンと命が消えていく。子供のころ、一時期「死」というものが得体のしれない怪物のようにのしかかってきた想い出がある。何日も夢にうなされた記憶もある。最近の子供たちは、そんな事は無いのだろうか? 現代の世の中、「死」というものは、別世界に追いやられたような気がする。その代償として「生」というもの「命」というものも、遠い異郷の存在になってしまった。
「なあ、タケルちゃん、このガラスの中の水はね、ちゃんと生きているんだ。」
「水が生きているって、どういうことさ。」
タケルはめんくらってそういった。
「つまり、みじんこたちは、水の中におちたこまかいごみや、藻のきれっぱしなんかをたべてふえていく。
〜中略〜
その酸素を、みじんこやくちぼそがすって炭酸ガスをはきだす・・・。」 ヒロシは、両手を胸の前でぐるぐるとまわしてみせた。 「な、この水の中で命がまわっているんだ。」

(「ふしぎな目をした男の子」より抜粋)
 コロボックル物語の4巻は、サイドストーリーとして「環境問題」がベースになっている事は、疑う余地はない。そしてその根底にながれるものは、「生きている」ということに対する賛美である。コロボックルたちと、タケルたちは、見事に桜谷用水池をよみがえらせた。生きているということは、単一ではなく多くの生き物が支え合っている結果であることが大事なのだと、彼らの行動はやさしく教えてくれる。
 佐藤さとるさんは、主義主張をことさら振り回したような作品を描かない。さりげなく、するりと差し込まれた栞のように、物語の中に挟み込まれているのだ。「生きること」を考えるとき、ふと「両手を胸の前でぐるぐると回してみせる」ヒロシの姿が見える。
 自分が自分だけでなく、多くの物達にいかされていることを気付かせてくれる貴重な一冊。今の時代だからこそ、大事にしたいお話である。

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