ネコの盆踊り〜うどん屋台【金長〜」



「ネコの盆踊り」ファンタジー全集(講談社):村上勉(画)

 

 「金長」は、戸塚の駅からすこし離れたバス停そばの、とある空き地に出没するうどん屋台である。関東はおろか関西、うどんの本場四国でもトンと見かけない「うどん屋台」である「金長」は、正体不明な要素が多い屋台である。だいたい営業許可をとっているかどうかも定かではない。営業時間も不明であるし、文字通り出没するという表現がぴったりの店の出し方をする。店を開く場所は決まっているようだが、どう見ても儲かっている様子はない。しかし、一度食べるとやみつきになること請け合いの「うどん屋」である。コシのあるうどんとだしの利いたツユが「おいでおいで」と呼んでいるような屋台だった。
 「金長」はどっから見ても「お似合い」という言い回しがぴったりな夫婦が切り盛りしている。屋台の店主は30代から40代くらいの、太り気味と言うよりは太りすぎで巨体の領域にはいった体型の持ち主で、いつもにこにこしているオヤジさんである。見かけはボテっとしているが、なかなか手先は器用で手慣れた手つきで、麺を切り、ゆであげる。水でしめる手際も鮮やかである。四国の出というだけあって、うどんには一家言ありそうだ。
 一方の女将は色白の細い人で、年はまだ30そこそこという感じ。以前は、どっかの偉い方の秘書かなんかをやっていたそうな。「どこの偉い人?」と聞いてもくすくす笑うばかりである。「ダンナとはどうして知り合った?」と聞いても鉄の橋がどうとかこうとかと訳のわからないことを言って、最後の方はモニョモニョとごまかされた。

 まだ夏の余韻が残っているが、朝夕は多少肌寒くなったきたその日、「金長」の「鍋焼きうどん」を注文して、屋台の長椅子の端っこに席を占めていた私は、遅れてやってきた客が目に入った。二人の若い夫婦と4人もの子供達が、暖簾をめくって佇んでいたのである。茶髪に染め、薄い茶色っぽい服装の若い男と、白いワンピースに身を包んだ小柄な女性。二人にそっくりな顔をして、そっくりの服装の男女2人づつの子供達が、いかにも「若い家族」だったから思わずほほえんだ。
「らっしゃい」と、巨体を揺すりながらオヤジさんは注文を聞いた。
「何になさいます?」
「えーーと、ざるを2人前と・・・」と母親らしき女性が答えながら子供達をみた。
「なにがいいの?」
「えっとねぇ。」
「えっとねぇ。」
「えっっとねぇ。」
「えっっっとねぇ。」
楽しくてたまらない様子で、子供たちが答える。
「冷たいつるつる。」
「冷たいつるつる。」
「冷たいつるつる。」
「冷たいつるつる。」
前もって打ち合わせたような答えが帰ってきた。
「じゃあ、ざるうどんを2人前、それから2人前見当を子供たちにわけますので・・・そういう注文できます?」
「ええ、いいっすよ。でも、少々冷やい夜ですから、あったかい物も出来ますよ」
「ありがとうございます。うちは、熱い物苦手なので・・・」

 恐縮する若い母親に、にっこりと笑ったオヤジさんは、さっそく、麺をゆで始める。うどん屋は、意外にかなりの水を使う。ゆでた後、水でしめるからだ。だから、うどんの屋台は珍しいのかもしれない。打ち上げて、切っておいた麺をつかみ、ぐらぐら煮立つ大鍋の中にサッと入れる。時間などははからない。麺の機嫌を聞きながらゆであげるのがコツだそうだ。
 そうこうしている間、子供たちはオヤジさんの手つきを珍しそうに見続けている。麺を茹でながら、オヤジさんは私が注文した鍋焼きうどんを、女将にバトンタッチして、ざるうどんのだし汁を用意する。ネギを刻み、わさびと、ショウガをおろす。ショウガはともかく、今時生のわさびをおろすうどん屋は、天然記念物ものだ。
 やがて頃合いを見たのか、オヤジさんは玉網以外のなにものでもない網で、うどんをすくい取る。麺の堅さを確認した後、黙々と茹で上がった麺を水でもむように洗う。麺に光沢が出てきて、まるで生きているようだ。
「はい【ざる四人前】おまち」
と、夫婦と子供達の前に並べる。
「はいこれ使ってくださいね。」
女将さんが、お椀を4つもって手渡した。
「どうも。」
 並のざるうどんならば、「ふにゃ」と盛られていることもしばしばだが、「金長」のうどんはざるの上で、コシの強さがわかる。
 母親はお礼を言ってお椀を受け取り、ざるうどんを盛って、だし汁をちょっとよそって子供達に渡した。子供達は、喜こんで食べる食べる。生意気に、ネギをしっかりだし汁に入れて、あっという間に、平らげていく。オヤジさんは、うれしそうにニコニコしている。同じく女将さんは、私の注文していた「なべやきうどん」を手渡してくれた。

と、子供たちのうちの、一人だけじーーとこちらを見ている。視線は私の手元にあった。「ぼくねぇ・・・あれも欲しい」
そういって私の「うどん」を指さした。「鍋焼きうどん」が気になるようだ。
「あれは、熱いわよ。大丈夫? 前にも舌、やけどしちゃって大変だったでしょう?」
「でも、あれが食べたいよぅ」
その子は、母親に向かって涙目になって訴えていた。
「しかたないわねぇ」
母親もそれ以上は強く言わず、オヤジさんに向かって言った。
「あと鍋焼きうどんを・・・半分て、できます?」
「ええ、いいっすよ。でも時間いただきますが」
そう言って、オヤジさんは、母親を見た。
「もう少し時間がかかるそうよ。我慢しましょう。」
「いやだよぉ。あれが食べたいよう。」
「でも、時間があまりないし、熱いからすぐには食べられないよ。」
父親も説得に乗り出した。
「私のを少し、差し上げましょう。ね、一緒に食べよう。」
と、いうと、その子は目を輝かせた。
 さんざん若い夫婦に恐縮されて、ちょっと照れ笑いしながら、あつあつのなべやきうどんを、お椀にすくう。ここのなべやきうどんは、女将さんの傑作である。鳥を中心にした汁のコクと、コシの強い麺が煮込んでも崩れず、逆に味がしみこみなんともいえない味になるのだ。
 その子は、私からお椀を受け取るとお礼もそこそこに、あつあつの鍋焼きうどんに食らいついた。ふーふー言いながら食べはじめる。
「この子だけは、本当に熱いもの好きなんだから。ひいじいちゃんの名前を付けたのがよくなかったのかしら?」
「ほんと、不思議だよなぁ」
両親が、ぶつぶつ言っているのもそっちのけで、その子はあつあつの鍋焼きうどんと、戦っている。ふーふー言いながら食べはじめる。そのうち、食べている間にその子の様子がおかしくなった。
耳のあたりから、ピン!ピン!と、三角形の耳が立ち上がり、つるつるホッペにはおヒゲがピヨン、ピヨンと生えてきた。最後には、おしりのあたりから、可愛いしっぽがはえてきているではないか。
「あや!!」
「おや!!」
「まあ!!」
「大変!!」
「金長」のオヤジさんと女将、両親と私は、顔を見合わせた。一瞬沈黙した後、「金長」のオヤジさんが聞いた。
「ぼうや、おいしいかい?」
「ふん、ひままへたへたことないほと、おいひい。」
「おやおや、そんなにうまいかい?」
「うん、ほんほうに、おいひいよ。」
その子は満面の笑みを浮かべて、酔っぱらったように、いった。
「ははぁ、呂律も回らなくなってますよ。どうしますか?」
「金長」のオヤジさんは、にこにこしながら両親に聞いた。
「はあ、申し訳ありません。この先の踊場まで、歩いていくつもりだったのですが、このままじゃ、行けなくなりました。」
父親は、困ったように言った。
「じゃあ、タクシーでお送りしましょう。いまから呼べばすぐ着きますよ。」
「金長」のオヤジさんがいうと、両親は顔を見合わせた。
「まあ、任せてください。」

 オヤジさんは携帯で知り合いのタクシーを呼んだようだ。しばらくすると「クラクション」の音がした。やってきたタクシーから運転手さんが、窓から顔をのぞかせて言った。
「あらあら、ネコさんと大人2人と子供さん3人ですか?」
「いいえ、ネコさん6人・・・じゃない、6匹です。」
子供たちが、叫んだ。開けっぴろげの言い方に「金長」のオヤジさんは、爆笑し、若夫婦は真っ赤になり、女将さんは、くすくす笑い、私は知らん顔をした。
「はいはい、ネコさんでもOKですよぉ。」
運転手さんは、笑いながら、ドアを開けた。
 若夫婦は、なんどもお礼を言って、あつあつのうどんに酔っぱらったようになっている子供1人+3人ともども、いそいそとタクシーに乗り込んだ。
「また、食べに来るね。」
「はーい、待ってるわよ。」
女将さんの声に送られて、タクシーは走り去った。
「時々お世話になるわねぇ」
女将さんは、車の後ろを見送ながらつぶやいた。
「そうだねぇ。空色の車のタクシーさんには」
そう、言いながら、オヤジさんは、ほとんどあの子に食べられてしまった私の鍋やきうどんを作り直していた。

 以上の文章は、ほとんど商用には出せない要素があります。特に「落ち」に絡んでいますので、ご容赦ください。思いつきたはいいが、これしか思い浮かばなくなってしまい展開しなくなってしまいました。(自爆)。落ちを含め、「ネコの盆踊りネタ」を含めると、5つほどネタが仕込んでありますので、お楽しみいただければ、幸いです

 掲示板で、“「ネコの盆踊り〜うどん屋台【金長】」の5つの謎をさがせ”、がプレゼント対象となってしまいました。「ひょうたんからコマ」っていう感じです。
一つは、佐藤さとるさんの「ネコの盆踊り」です。
あと4つ、仕込んでありますので、その説明を試みてください。回答は掲示板へどうぞ。締め切りは次の佐藤さとるWEB更新日までです。最初に4つのネタを説明した方には、愛媛名産 梅錦大吟醸!!か、または「鬼ヶ島通信」関連お宝グッズ等々を差し上げます。4つのうち一つは、掲示板で末吉さんが、大ヒントをくれています。あとの3つは、ネタというか、設定というか・・・。2つは、完全に裏設定です。もう一つは、まあ、想像力を働かせて、考えてくださいませませ。
last update 6/18 '2002
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