卯月の本・弐
「子どものころ戦争があった」


子どものころ戦争があった

「戦争」というキーワードは、一時児童文学には欠かせない物だった。というよりも「児童文学という範疇をこえて、文学の、人間の表現のモチーフのひとつとしては、欠かせない、避けて通れない重要な課題であった」と言う方が正確であろう。
もちろん、「戦争」を題材にすることは、かなり困難を伴うことは想像に難くない。戦後半世紀以上を経て戦争体験者は減少の一方。たのしい事がいっぱいある現代にどうやって戦争を実感させ、かつ、共感を呼ぶ方法があるのだろうか?

「子どものころ戦争があった」は、現代の児童文学の作者たちが、その少年時代を描くことにより、「戦争」を浮き彫りにしようと試みた一冊である。その各編に流れているのは、「戦争」というものの「悲哀」と「戦前、戦後の判断基準の転換」にたいする「とまどい」である。

佐藤さとる氏が綴る「戦争」は、淡々と描かれれた一幅の絵のようである。旧制中学校の様子、父親との別れ、学徒動員の仕事等。ただ描かれる情景の一コマ、一コマの中に戦いの日々が見え隠れする。

 佐藤氏のエッセイは数が少ない上、本になっている物はほんの一握りである。今回、この本がいまでも入手可能とのことを知り、紹介したいと思った次第。もし、入手できなくても図書館にはある可能性が高い。貴重なこの一遍をかみしめて読んでいただければと思う。特に、父親との「最後の別れ」のシーンは一読の価値有り。佐藤さとる氏のエッセイでも一番好きな一冊である

「子どものころ戦争があった」あかね書房から発売中(らしい)。
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