2003/6
「マコトくんとふしぎないす」
「マコトくんとふしぎないす」
偕成社:オリジナル表紙より
村上勉(画)
鬼ヶ島通信の41号は、特集「鬼」だった。実は、鬼ヶ島通信は創刊まもなく鬼の特集をしている。創刊当初に立ち戻るという意図があったらしい。その特集の中、佐藤さとるの「太一の机」が再録されていた。この話のほかにも、佐藤さとる氏による鬼の話は、多数ある。私にとっては、いずれも甲乙つけがたい作品だが、ただ一ついえるのは、どの鬼もちょっとユーモラスで、ちょっと哀愁がただよっているのだ。マコトくんの家には、古くて小さいが頑丈ないすがある。ずっと前からって、どうもおじいさんのころからあったようだ。実は、そのいすには、ちょっとした秘密がある。どうも、そのいすには、「鬼」がとりついているようなのだ・・・「マコトくんとふしぎないす」にも、にくめない鬼が登場する。どうも現代の鬼は、力を失い人間に使われているなにかにとりついていないと、「消滅」してしまうというのだ。おまけに、その物が壊れたり、使われなくなったりしても、結局「消滅」してしまう。なんと、哀愁漂う設定だろう。ただでさえ、こういう設定の上、村上勉氏描く鬼のなんと人じゃなくて鬼の良さそうな、顔。思わずため気が出てきそうである。
この話、長男が大のお気に入りで、なんども読まされ、そしてなんども聞かれた。「うちにはいす、ないの??」と。そのたびごとに、「うちには、ないなぁ」と答えるのは、さすがにつらかった。佐藤マジックにかかった息子は繰り返し尋ねる。繰り返し問う息子の想いの向こう側に、ちょっと哀愁の漂う鬼が、ほほえむのを見たような、そんな気がしたのは、気のせいだろうか??
どこかの家の廊下にちょこんとある小さないすを見かけたら、そのいすに鬼がとりついていないか確かめたくなる、そんなお話である。
★偕成社lからオリジナルにあたるハードカバーが出版。のちに幼年童話シリーズとして表紙を書き直して出版された。佐藤さとる全集6巻、講談社文庫「てのひら島はどこにある」に収録。