師走の本・弐
「おじいさんの石」



佐藤さとる全集:村上勉 絵


ご存じ、否含山のお話。といっても、「否含山」は、名前がちろっと出てくるだけで、現代の話である。

カオルのうちの玄関の下駄箱の上には、かぼちゃくらいのおにぎりのような石があって、「おじいさんの石」と呼ばれている。ある日、カオルは、その石を庭の芝生の上に置くのだが・・・

掌編中の掌編。ページ数でいうと3ページほど。かろやかに奇蹟を垣間見せてくれるこの掌編は、妙に気になる話である。内容は、もう簡単明瞭。しかし素人目にはだれでも書けそうなアイデアと長さだが、味付けはさすがに違う。

その夜、カオルはおとうさんに「おじいさんの石」について尋ねる。すると、おとうさんは「その石はおじいさんのふるさとの否含山にそっくりなんで、大切にしていたんだよ。」と答えてくれた。

現実の中にするりと差し込まれた、非現実。かぼちゃほどの石に秘められたものはなにか?

短い話の中で語られる物は、ちいさな石の中にある宇宙ともいえるし、祖父から父、父から子というつながりともいえる。そんな主題、モチーフ云々するのがもったいないような、語り口。その凝縮された世界を見事に切り取って見せてくれるあざやかな小品である。

「おじいさんの石」1971年「杉の子」(ユニチカ)に掲載。
「佐藤さとる全集7」(講談社)、「りゅうのたまご」(偕成社)にも収録。


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