神無月の本・弐
「おおきなきがほしい」



佐藤さとる全集2巻:の表紙より
村上勉(画)


佐藤さとるさんの絵本の中でも、もっとも読者を獲得していると思われる本。初版からもうすぐ30年。すでに100刷以上版を重ねている本は、絵本の中でも珍しいだろう。

かおるは、おかあさんに、こう問いかける。「おおきな おおきな 木があると いいな。ねぇ おかあさん」 おかあさんへの、問いかけにはじまり、かおるの「おおきな 木」に関する想像は、ぐんぐん広がっていく。

かおるの想像する「木」は、その太さに始まり、はしごのようす、枝、あつまってくるリスや鳥をはじめ、小屋の様子も、細かく描写されている。とちゅうから、かおるの想像だと言うことをすっかり忘れてしまう。特に、春夏秋冬の描写のすばらしいこと。村上さんの絵もすばらしい。偕成社版の絵本を開いて、文章と4枚の挿し絵とを見比べていると、ため息が出てくる。小屋の奥には、かおるのベットまであるのだが、冬になると、厚手の布団に変わっているのだ。(まあ、芸の細かいこと)

木の上の小屋は、魅力あふれる物だ。小さい頃、「スイスのロビンソン」に夢中になったが、その中でも最初に文字通り「おおきな木」の上に小屋をつくるのだ。そこの部分を何度読み直したことか。かの「ちびまるこ」ちゃんも、木の上に「秘密基地」を作る話があるし、永遠の妖怪退治のスペシャリスト「ゲゲゲの鬼太郎」も、木の上にすんでいる!!

いまや、都会はいうまでもなく、田舎といわれるところでも、木に登っている子供を見ることはない。「xxの木には、蜂が巣を作っているからさわるな」とか「xxの木は、折れやすいから登るな!!」などという知恵も、風化してしまったかもしれない。でも、今でも「おおきな木がほしい」が売れている様子を見ると、まだまだ捨てたもんじゃないと思ったりもする。

この記事を書く前に、息子(5才)に(この本を)ひさびさに読んでやったら、彼も考え初めたらしい。「へびはいるかなぁ、トカゲはくるかなかぁ。スズメはくるかなぁ・・・」彼の頭の中には、すでに小屋ができているかもしれない。うちの狭い庭に、なにか植えようと言い出すかもしれない。「まてばしい」を、植えることになるかどうか・・・山の神のみが知っている。


偕成社版
1971年初版以来、版を重ねているベストセラー
村上勉氏 絵


「おおきなきがほしい」
1970年6月に学研「母のくに」に掲載。1971年1月、全面改稿して偕成社から刊行。
「佐藤さとる全集:2巻」でも入手可能。


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