2003/10/15 Update
「佐藤さとる幼年童話自選集・推薦文」


この推薦文は、ゴブリン書房発行「佐藤さとる幼年童話集・1〜4」の推薦文です。
ゴブリン書房殿のご好意で転載を許可していただきました。
ありがとうございます。ぜひ購入ねがいます。

また、「だれも知らない小さな話」(偕成社)も好評発売中です。こちらもよろしくお願いします。


おもしろくて、いちばん大切で・・・・・・ 神宮 輝夫

 佐藤さとるさんの童語がいつも多くの人たちに読まれているのは、なによりも、おもしろいからです。
「かえるのアパート」などという童話の題名をきいただけで、「どんなアパートかな」と知りたくなります。 そこで、登場するかえるにきくと、これこれの花が咲く椿の木の下にある冬ごもりに最適なホテルだというのです。 そして、その椿は主人公あっちゃんの家の庭にあるらしい……。
 佐藤さんの童話の多くは、机の上、椅子、電信柱、湯わかしのような、どこにでもあるものが、物語の場所に なったり主人公になったりしています。私たちのふつうの生活が、突然おもしろくて不思議な時間や場所に 変わってしまいます。
 それが物語の魔法です。この世でいちばんすばらしいのは、ふつうの人たちのふつうの毎日の中にあるという 魔法の話に耳を傾けているうちに、「そのすばらしい毎日には、思いやりの心がなくては」としみじみ感じます。
 「かえるのアパート」のあっちゃんは、冬ごもりを終えてかえるが出てきたら遊ぼうと、庭に池をつくりたいと 思っています。
 こんな気持ちは、今、子どもにもおとなにも、いちばん必要だなと思います。

神宮輝夫(じんぐうてるお):1932年、群馬県生まれ。訳書に『アーサー・ランサム全集』『ウォーターシッブ・ダウンのうさぎたち』、評論に『世界児童文学案内』『英米児童文学史』などがある。



 光に満ちた場所 佐藤多佳子

 私はずっと佐藤さとるの読者だった。小学校の頃は赤んぼ大将を、中学校ではコロボックルを、高校、大学では手に入るあらゆる本を読んでいた。とにかく好きで好きでたまらなかった。透明感のある確かな世界を。優しい涼しい言葉たちを。かけがえのない、ささやかな秘密のような冒険の数々を。
 佐藤さとるの物語は、するりと心に流れ込んでくる。精密で確かな手応えがあるのに人工の香りがしない。例えば、蝉の抜けがらとか、葉っぱの上の朝露とか、はっとするような自然界の美に出会ったような感触がある。ファンタジーなのにこの驚くべき自然さはどういうことだろう? 考えて考えて苦労して書いているのだよ、と物語の作り手はおっしゃるかもしれない。ファンタジーがいかに理詰めの精密さを必要とするかという著書を読んだこともある。その著書に書かれていた佐藤さとるの創作のイロハを手帳に書き写して私はつたない習作に励んだものだった。あれから20年以上の月日がたち、私もプロと呼ばれる立場になったが、それでも、未だに佐藤さとるの作品は神秘で美しい謎である。
 五感も六感も研ぎ澄まされる。世界が生き生きとした声に満ちてくる。湯わかしが、せんたくばさみが、電信柱が語りかけてくる。猫がジャンケンを誘ってくる。子供たちの笑い声、驚く顔があふれている。佐藤さとるを読むたびに、この世の中はまちがいなく新しくなる。光に満ちた場所になる。

★佐藤多佳子(さとうたかこ): 雑誌・「MOE」の童話大賞を受賞しデビュー。佐藤さとるさん(現在は勇退)・村上勉さん・末吉暁子さん等が創刊した「鬼ヶ島通信」の新人童話作家の投稿コーナー「ももたろうコーナー」の入選者でもある。主な著作:「黄色い目の魚」「しゃべれども・しゃべれども」「神様がくれた指」等。

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