文月の本・壱
「タツオの島」



「佐藤さとる全集5巻:村上勉(画)


 この話、題名どおり、タツオの島のお話である。ちょうどこの話、佐藤さん本人のコメントがあるので、ご存知ない方のために引用しよう。

−前略−
そう、あの話はね、まさに島を造る面白さだけで書いたようなものです。池を造ることも面白いけれども、池の中に島を造るのはもっと面白い。それでどうすれば造れるだろうかと頭をひねるわけですよ、作者が。(幻想文学:7号から引用)
−後略−


前編、後編の構成のうち、前半は見事に、庭の池に「島」が出来上がっていく。その出来上がっていく様子がうれしい。一心に造るタツオが見えてくる。

まず、うえきばち。その重さの描写が続く。池に落として「バッシャーン!!」。よこに転がるうえきばち。その上に土を盛って、きれいな石を載せる。どろだらけのタツオの姿が、目に浮かぶ。

後半、友達のヒロちゃんが登場する。ヒロちゃんは、タツオから島の「いわれ」、銀色の鯉のことを聞き、ちょっとからかう。そしてタツオの島の石を触ろうとして、ひっくりかえって、池に飛び込んでしまう。

最初、前編が読みきりで「学習雑誌」に書かれた。そのとき「作家になったつもりで、このつづきを書いてみましょう。」というイベントがあり、翌年「つづき」の見本を書いてくれと言われて書いたのが、後半とのこと。やはり、後半のもっていき方は、「さとる」風味付けがタップリである
「島」というキーワードは、佐藤さんの物語に、しばしば登場する。凝縮されたミクロコスモス、小宇宙である。身近なところに、凝縮された小世界を見せてくれる佐藤さんの宝石のようなこの小品、機会がありましたら、どうぞ。

なお、「ファンタジー全集:16巻」に「島」に関するエッセイがある。その中に「サトル島」という言葉が出てくる。あわせて(読むことができる方は)どうぞ。
「タツオの島」1970年 「三年の学習」読み物特集号、翌年「四年の学習」読み物特集号。講談社文庫は「てのひら島はどこにある」に収録。佐藤さとる全集の5巻に収録
現在は「佐藤さとる全集:5巻」でのみ入手可能。



こちらは、中身の挿画。おなじく村上さんの画です。


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