2002/1・弐
「ヒノキノヒコのかくれ家」



「ヒノキノヒコのかくれ家」
コロボックル童話集(青い鳥文庫より)
村上勉(画)


 佐藤さとるさんのコロボックル作品シリーズは、長編5冊と思っている人が、以外と多い。実は、長編5編以外に、2冊の短編集がある。2冊とも、良質のコロボックルのお話が詰まっている。これは、そのうちの一冊、コロボックル童話集の中の一編。
 トギヤはコロボックルの「カツ大工」。「カツ大工」というのは、ようするに腕のよい大工のことだ。カツ大工である、トギヤは、コロボックル仲間の家などの大工である上、人間と「トモダチ」になろうとしているコロボックルのかくれ家を作ることもあるのだ。ある日、若いコロボックルから頼まれて、かくれ家をつくるため下見に来ていたトギヤは、その家に偶然訪れていた人間のカツ大工「クラさん」から目がはなせなくなった・・・
 佐藤さんにすれば、お得意のパターンである「出会いのお話」の一つである。トギヤは長編の方にも顔を見せていて、いわばおなじみのキャラクタ。いわゆる職人タイプの大工であるトギヤと、同じ大工のクラさんとの話がテンポよく語られる。トギヤが、はじめてクラさんの前に姿を現すシーンといい、クラさんと娘さんの会話のシーンといい、弾む展開と、言葉のキャッチボールが心地よい。
 物語は、ポンポンすすんで、あっという間に終わる短いお話。あざやかにエピソードをつなぎ、一瞬の記念写真のように、読者に見せてくれる。さわやかな想いが読了後に残る短篇。
 可能ならば、長編で読んでみたい話である。

コロボックル童話集(青い鳥文庫)に収録。

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