卯月の本・壱
「りゅうのたまご」
「りゅうのたまご」 偕成社:村上勉(画)
佐藤さとる氏の物語には、繰り返し登場する「モチーフ」とも言えるものがいくつか存在する。そのうちのひとつが、「否含山」である。「否含山」という山は実在しないが、偕成社文庫の「りゅうのたまご」は、その「否含山」をキーワードに編集された珍しい短編集である。「きつね三吉」は、すでにご紹介したが、合わせて、「否含山」伝説(おいおい (^^;)を、探ってみよう。なお、紹介は、偕成社文庫の並べ方通りである。この並べ方を選択した編集者の意図を考えても面白い(と思う)。
【おじいさんの石】
この話のみ現代のお話。おじいさんが持っていたという石から、まだ見たことない、「故郷」ともいえる風景が立ちあがってくる。あなたには、「故郷」がありますか? この話を読むと「【故郷】とは、なにか?」なんてことを考えてしまう。
【そこなし森の話】
人里離れた森の奥での「スケール」の話。佐藤さとる氏の物語の中で、「大きさ」というモノサシは、しばしば登場する重要な概念のようである。「小さい物」の話もあれば、「大きな物」の話もある佐藤さとる氏の「そこなし森」へあなたもどうぞ。
【きつね三吉】
これは、すでに記載。こちらをどうぞ。
【天からふってきたいぬ】
天からやってきた犬が、天にかけのぼって帰っていく話。何をするでもないが、「天から降ってきたいぬ」というのが、まこと、可愛いのである。
【まめだぬき】
竹の筒の中の不思議。「まめだぬき」も面白い存在だが、それを飼う炭焼きのおやじが妙に気になる存在。
【りゅうのたまご】
「りゅう」のリアリティは秀逸。「聊斎志異」を思わせる題材を、佐藤さとる風の味付けでいただく。おかわりが欲しい。村上勉氏の龍の絵もよい。展開も結び方もまた佐藤さとる風。
さて、この「否含山」であるが、実はモデルとなる山がある。かつて月刊誌「MOE」で、村上勉さんがインタビューに「そう」答えていた。さて、皆さんも、そのモデルがどの山か、探ってみていただきたい。ヒントは、「りゅうのたまご」をはじめとするお話の中に点在している。
ともかく、たとえモデルになる山があるにしろ、ないにしろ「否含山」は、物語の扉の向こう側に確かに存在する。佐藤さとる氏が語る「サトウサトル・ワールド」にそびえていることには変わりないのだ。
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なお、この「りゅうのたまご」に収録されている村上勉氏の挿し絵は、文庫、全集とは別の絵も多数収録されている。こちらの意味でも、「一見の価値あり」とお勧めしておく。